MTG(7806・東証グロース)は、美容機器「ReFa」とEMSトレーニングギア「SIXPAD」を2本柱とするファブレスメーカーです。2018年7月のIPO時に時価総額約2,700億円をつけた後、中国子会社の会計不正が発覚し、時価総額は84%消失して約414億円まで暴落しました。
しかしそこからReFaブランドの爆発的成長により、FY2025で売上988億円(前年比37%増)、営業利益106億円と過去最高を更新。時価総額は2,837億円とIPO時を上回る水準まで回復しました。注目すべきは、この復活がM&Aによる「買収」ではなく、ブランド構築という有機成長を軸にした「Build型」の戦略で実現された点です。
目次
企業概要と業績推移
事業構造
MTGはファブレス型(自社工場を持たず、企画・開発・デザインに特化)のビューティー&ウェルネス企業です。特許6,802件を保有し、103の研究機関と提携。製造は外部委託しつつ、ブランド体験を重視した販売チャネルを展開しています。
| セグメント | FY2025売上 | FY2025利益 | 内容 |
|---|---|---|---|
| 通販(ダイレクトマーケティング) | 378億円 | 106億円 | 自社EC、TVショッピング |
| プロフェッショナル(サロン向け) | 248億円 | 44.1億円 | 美容サロン44,000店への業務用販売 |
| リテールストア(直営店) | 304億円 | 36.1億円 | 百貨店・商業施設の直営店 |
| グローバル | 14.7億円 | ▲4.8億円 | 海外子会社 |
| スマートリング(EVERING) | 5.4億円 | ▲4.2億円 | 非接触決済リング |
ブランド構成比はReFa 74%、SIXPAD 15%。ReFaの一極集中が進んでおり、国内3セグメント(通販・サロン・直営店)はいずれも高い利益率を実現しています。一方、グローバルとスマートリングは赤字継続中です。
業績推移(決算短信より)
| 決算期 | 売上高 | 営業利益 | 経常利益 | 純利益 |
|---|---|---|---|---|
| 2017年9月期 | 453億円 | 57.9億円 | 61.2億円 | 43.1億円 |
| 2018年9月期 | 604億円 | 88.9億円 | 88.8億円 | 55.1億円 |
| 2019年9月期 | 360億円 | ▲144億円 | ▲147億円 | ▲262億円 |
| 2020年9月期 | 348億円 | 12.2億円 | 16.7億円 | 15.3億円 |
| 2021年9月期 | 428億円 | 38.9億円 | 42.1億円 | 55.9億円 |
| 2022年9月期 | 490億円 | 32.4億円 | 37.2億円 | 26.9億円 |
| 2023年9月期 | 602億円 | 36.0億円 | 41.7億円 | 19.8億円 |
| 2024年9月期 | 719億円 | 39.7億円 | 43.6億円 | 28.9億円 |
| 2025年9月期 | 988億円 | 106.7億円 | 107.3億円 | 79.3億円 |
| 2026年9月期予 | 1,350億円 | 150億円 | 150億円 | 100億円 |
FY2019の262億円純損失からFY2025で79.3億円の過去最高純利益へ。特にFY2024→FY2025は売上+37%、営業利益+169%と、利益の伸びが売上を大幅に上回る高質な成長フェーズに入っています。FY2026予想では売上1,350億円(+37%)、営業利益150億円(+41%)とさらなる加速を見込みます。
会計不正と84%暴落 ― 2019年の危機
MTGの歴史を語る上で避けて通れないのが、FY2019の会計不正問題です。
- 事象:中国子会社(MTG Shanghai)および越境EC事業で、返品権付きの代理店販売を最終販売として計上する不適切な会計処理が発覚
- 第三者委員会:意図的な売上操作を認定。海外事業担当役員が辞任、CEO松下は1年間報酬100%返上
- 財務影響:売上は当初予想の510億円から360億円に修正。減損・引当金計上を含め純損失262億円。純資産は580億円→318億円に半減
- 株価影響:時価総額は2,647億円(2018年9月)→414億円(2019年9月)へ84%下落
この危機から7年でIPO時の時価総額を超えるまで回復した点は、M&Aの文脈とは別にブランド力と経営再建の成功事例として注目に値します。復活の原動力は買収ではなく、ReFaブランドの国内チャネル深耕(通販・サロン・直営店の3チャネル戦略)でした。
M&A戦略 ― 「Build型」企業のM&A活用法
MTGはバイセルのようなロールアップ型でも、メドレーのようなプラットフォーム完成型でもありません。有機成長(ブランド構築)が主軸であり、M&Aは特定の目的に限定して活用する「Build型」企業です。
M&Aの3つのパターン
| パターン | 目的 | 事例 |
|---|---|---|
| チャネル獲得 | 自社ブランドの販路を広げる | M&Live(美容サロンチャネル) |
| 技術スカウティング | 新技術を取り込む | McLEAR(スマートリング技術)、MTG Ventures(CVC) |
| 売却→再取得 | 非コア事業を切り出し、独立成長後に再統合 | Kirala(売却12億→再取得39億) |
特に3つ目の「売却→再取得」パターンは、日本企業のM&Aでは珍しい手法です。2020年にKiralaのウォーターサーバー事業を12億円で切り出し(当時は会計不正後の経営再建期)、Kiralaが独自に美容デバイスブランド「STELLA BEAUTE」を成長させた後、2025年に39.1億円で再取得しました。
M&A案件の個別分析
| 時期 | 買収先 | 金額 | 目的 | 結果 |
|---|---|---|---|---|
| 2013年8月 | M&Live | 非開示(上場前) | 美容サロンチャネル | ○ 大成功(セグメント売上248億円に成長) |
| 2017年8月 | McLEAR(英国) | 非開示 | スマートリング技術 | △(技術吸収後、2025年法人解散。EVERING赤字継続) |
| 2018年10月 | MTG Ventures設立 | 50億円投資枠 | CVC(技術探索) | 稼働中 |
| 2020年3月 | Kirala売却 | 12億円で売却 | 経営再建期の事業整理 | → 2025年に再取得 |
| 2024年8月 | JST(旅行代理店) | 株式交換 | ビューティー体験ツアー | 統合中 |
| 2025年10月 | Kirala再取得 | 39.1億円 | STELLA BEAUTE+生活サービス | 統合中(のれん14.6億円) |
1. M&Live(2013年)― 最大の成功案件
IPO前に取得した美容サロン向け製品卸の企業で、現在は「MTG Professional」としてプロフェッショナルセグメント(売上248億円・利益44.1億円)の中核を担っています。全国44,000〜50,000店の契約サロンにReFa等を卸すチャネルを構築し、FY2021の88億円からFY2025の248億円へ4年で2.8倍に成長。MTGのM&Aで最も大きなリターンを生んだ案件です。
2. Kirala(2020年売却→2025年再取得)― 売却→再取得モデル
2020年、会計不正後の経営再建期にKiralaのウォーターサーバー事業を約12億円で新設分割・売却しました。Kiralaはその後、独自に美容デバイスブランド「STELLA BEAUTE」を開発・成長させ、2025年10月にMTGが約39.1億円で全株式を再取得。のれんは14.6億円。
教訓:危機時に非コア事業を切り出す判断自体は合理的でしたが、結果として12億円で手放した事業を39億円で買い戻すことになりました。Kiralaが独立期間中に開発したSTELLA BEAUTEの価値が上乗せされているとはいえ、「手放すタイミングと再取得の判断」にはPMI視点で検討の余地があります。
3. McLEAR&EVERING ― 技術吸収型M&Aの明暗
2017年に英国のスマートリング企業McLEARを取得し、非接触決済技術を獲得。この技術をベースに自社ブランド「EVERING」を立ち上げました。McLEAR自体は2025年7月に法人解散。技術の吸収には成功しましたが、EVERINGセグメントはFY2021-FY2025の5年間で累計約42億円の赤字を計上しており、収益化には至っていません。
数字で見る復活 ― ReFaが牽引した有機成長
セグメント別売上の成長(億円)
| セグメント | FY2021 | FY2023 | FY2025 | 成長率(4年) |
|---|---|---|---|---|
| 通販 | 196 | 270 | 378 | +93% |
| プロフェッショナル | 88 | 154 | 248 | +182% |
| リテールストア | 87 | 147 | 304 | +249% |
| グローバル | 31 | 13 | 15 | ▲52% |
国内3チャネルが全て2〜3.5倍に成長しており、特に直営店セグメントは4年で3.5倍。M&Liveが基盤を築いたプロフェッショナルチャネルも2.8倍です。一方、グローバルは半減しており、会計不正問題の爪痕が残る海外事業の立て直しは道半ばです。
時価総額の推移
| 時点 | 時価総額 | イベント |
|---|---|---|
| 2018年7月(IPO) | 約2,700億円 | 東証マザーズ上場 |
| 2019年9月 | 414億円 | 会計不正で▲84% |
| 2022年9月 | 482億円 | 回復初期 |
| 2025年9月 | 1,827億円 | ReFa爆発的成長 |
| 2026年6月 | 約2,837億円 | IPO時超え |
今後の展望とリスク
- FY2026予想:売上1,350億円(+37%)、OP 150億円(+41%)。H1時点で売上665億・OP 100億と進捗率49%で順調
- チャネル拡大余地:量販店4,200→20,000店(4.8倍)、ドラッグストア1,500→24,000店(16倍)を目標
- ReFa一極集中リスク:ブランド構成比74%。ブランド鮮度の維持が生命線
- EVERING・グローバルの赤字:スマートリングは累計42億円の赤字。海外は会計不正以降低迷。新HQ完成(2027年、隈研吾設計)後の海外再展開が焦点
- Kirala統合:39億円の再取得が利益に転換するか。STELLA BEAUTEとReFaのカニバリゼーションリスク
PMI視点での示唆
「Build型」企業のM&A活用法
MTGの事例は、M&Aに依存しない成長モデルでも、M&Aを「補完的に」活用する知恵があることを示しています。
- チャネル獲得型M&Aはブランド企業と相性が良い
M&Liveの買収でサロンチャネルを獲得したことが、ReFaの成長を大きく加速させた。ブランド力がある企業にとって、「何を作るか」より「どこで売るか」の方がM&Aで解決しやすい課題であることが分かる - 技術スカウティング型M&Aの投資回収は長期戦
McLEAR→EVERINGは5年で累計42億円の赤字。技術の吸収自体は成功しても、その技術を収益化するまでの時間とコストは想定を超えがち。ギフティのソウ・エクスペリエンス同様、コア事業との距離がある領域への投資は難易度が高い - 「売却→再取得」は戦略的に有効だが、タイミングが全て
Kiralaの事例は、危機時に事業を切り出し、独立成長後に再統合するパターンとして興味深い。ただし「12億→39億」の価格差は、独立期間中の価値創造を再取得側が享受できなかったことも意味する
現時点での評価:○ 成功(ただしM&Aではなく有機成長による復活)。会計不正で時価総額84%を失った企業が、大型M&Aに頼ることなくReFaブランドの国内チャネル深耕で時価総額を7年でIPO時以上に回復させた点は、ブランド企業の経営再建モデルとして高く評価できます。M&AはM&Live(チャネル獲得)で大きなリターンを生んだ一方、EVERING(技術スカウティング)は赤字継続中。「買わない」という選択もまた、M&A戦略の一部です。
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